弁護士に企業情報を渡したら懲戒解雇?
―メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件(東京地判・平成15年)から考える秘密保持義務―
🔍 事件の概要
X氏は、メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ社に勤務していましたが、職場でのいじめや差別的な処遇を受けていると感じ、弁護士に相談。
その際、会社の人事情報や顧客情報などが記載された書類を、会社の許可なく弁護士に開示・交付しました。
会社はこれを秘密保持義務違反とし、就業規則に則りX氏を懲戒解雇。
X氏は「懲戒解雇は無効である」として、地位確認と未払い賃金の支払いを求めて提訴しました。
⚖️ 裁判所の判断(東京地裁)
裁判所は、以下のような判断を示しました:
- X氏は、企業秘密を取り扱う立場にあり、秘密保持義務を負っていた
- しかし、開示先は守秘義務を負う弁護士であり、目的も自己救済のためであって不当ではない
- 弁護士には、弁護士法第23条により職務上知り得た秘密を保持する義務がある
- 書類の開示は、就業規則の懲戒事由に形式的に該当する可能性はあるが、目的・手段・状況を総合的に見れば、違法性はない
- よって、懲戒解雇は権利の濫用として無効。仮に普通解雇とみても、解雇権の濫用として無効
✅ 実務への示唆
この判例は、以下のような実務的ポイントを示しています:
観点 | 内容 |
---|---|
秘密保持義務 | 労働契約上の義務として当然に課されるが、目的・開示先によっては違法性が阻却される |
弁護士への相談 | 守秘義務を負う専門家への開示は、自己救済のためであれば正当とされる可能性が高い |
懲戒処分 | 就業規則に該当しても、社会通念上相当かどうかで判断される(解雇権の濫用) |
✨ 社労士としてのひとこと
この事件は、企業秘密の保護と、労働者の権利救済のバランスをどう取るかという問題を扱っています。
社労士としては、以下のような支援ができるかと思います。
- 秘密保持規定の整備と説明
- 懲戒処分の妥当性判断
- 労働者の相談ルートの確保と周知
ハラスメントは初期対応が肝心。内部のハラスメント窓口の設置、周知、形骸化しないような工夫が必要と感じます。
この事例ではハラスメント問題が秘密保持義務違反にすり替わり懲戒解雇問題となっています。
投資顧問業を行っていたこの会社にとっては、ハラスメントよりも機密情報を外部に漏らした方が重罪だったのです。
ふと、とあるマンガの「金は命より重い・・・」との名言?を思い出しました。
ご縁ある皆さまの実務に、少しでもお役に立てれば幸いです。