教習指導員資格の費用、退職時に返還義務はある?

―勝英自動車学校事件(令和5年判決)から考える―
今回は、退職時に資格取得費用の返還を求められた「勝英自動車学校事件(令和5年10月26日 東京地裁)」についてご紹介します。

🔍 事件の概要

X氏は、令和4年4月に自動車学校Y社と雇用契約を締結し、教習指導員見習いとして勤務。
Y社は、X氏に対して教習指導員資格取得に必要な費用(研修所への講習費47万9700円+社内研修等の人件費14万5000円)を立て替え、「3年以内に退職した場合は全額返還、3年以上勤務すれば免除」という内容の準消費貸借契約を結びました。

X氏は令和5年1月に退職。Y社は契約に基づき、62万4700円の返還と遅延損害金を請求しました。
X氏は「この契約は労働基準法16条に違反し無効だ」と主張しました。

⚖️ 裁判所の判断

東京地裁は、以下のように判断しました:

  • 教習指導員資格は国家資格であり、取得者本人に帰属するもの
  • 資格取得により、転職活動で有利になるなど本人に利益がある
  • Y社では資格取得後に手当(月3万円)が支給されていた
  • 研修中は就労を免除され、賃金も補償されていた
  • 3年勤務で返還免除という条件は不当に長いとは言えない

したがって、今回の契約は労基法16条(違約金・賠償予定の禁止)に違反せず、有効と判断されました。

✅ 労基法16条とは?

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

この条文は、退職の自由を守るために設けられたものです。
しかし、今回のように「本人に利益があり、契約内容が合理的で、強制性がない」場合は、違反とまでは言えないと判断されました。

✨ 社労士としてのひとこと

この判例は、企業が資格取得費用を立て替える際の契約設計の参考になる事例です。
ポイントは以下の通り:

  • 本人に利益があるかどうか(資格の汎用性・転職への有利性)
  • 契約内容が合理的かどうか(返還免除条件・金額・期間)
  • 強制性がないかどうか(選択の自由・説明の有無)

誤解を恐れずに言えば労基法16条を掲げて借金を踏み倒そうとした社員の話ですが、社内研修の人件費については貸金として認められなかったことから契約書の書き方が大事で、この金額の資格取得費用や資格手当を出せば3年で返済を免除する契約は法律違反にはならないという肌感覚がつかめる判例かなと思います。

社労士としては、契約を設計・運用する際に、従業員への丁寧な説明が求められると感じます。

何よりも、採用の段階でこのようなすぐ辞めそうな人を見抜くスキルが欲しいですね。

次回は同じようなテーマで留学費用の返還についての事件をご紹介いたします。

ご縁ある皆さまの実務に、少しでもお役に立てれば幸いです。

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