内定取消はどういう場合に許されるか?

―兼松アドバンスド・マテリアルズ事件から考える―


今回は、採用内定の取消に関する判例をご紹介します。企業にとっても、これから社会に出る方にとっても、知っておきたい重要なポイントが詰まった事例です。

解雇がとても難しいのに、更に難しそうな採用内定取消が認められるのはどういった事例なのでしょうか。


事件の概要

2022年9月21日、東京地裁で言い渡された「兼松アドバンスド・マテリアルズ事件」。
この事件では、K社が新卒採用の内定者に対して、入社前の言動を理由に内定を取り消したことが争点となりました。

内定者X氏は、歓迎会の場で以下のような発言をしたとされています:

  • 他の社員を「こいつら」「オマエ」と呼ぶ
  • 「やくざ」「反社会的な人間に見える」といった暴言
  • 上司に対して呼び捨て
  • 「会社方針が自分と違えば、自分のやり方を通す」との発言

これらの言動が、職場の秩序を乱すと判断され、会社は内定を取り消しました。


裁判所の判断

裁判所は、X氏の言動が協調性を著しく欠き、営業職としての適性に疑義があると認定。
アルコールの影響下であったことは考慮されず、内定取消は有効と判断されました。


社労士としての視点

この判例から読み取れるのは、さすがにとんでもねえ奴に対しては内定取消もやむなしということ、また内定取消には「解雇」と同程度の合理的理由と社会通念上の相当性があれば可能だということです。

つまり、企業が一方的に内定を取り消すには、以下のような要件が求められます:

  • 合理的理由:業務遂行に著しい支障があると認められる事情
  • 社会通念上の相当性:客観的に見て「取消もやむを得ない」と判断されるかどうか

今回の事例では、X氏の言動が職場秩序を著しく乱すとされ、これらの要件を満たすと判断されました。


おわりに

内定は「契約」としての側面を持ち、簡単には取り消せないものです。
しかし、著しく不適切な言動があった場合には、取消が認められる可能性もあることを、企業・労働者双方が理解しておく必要があります。

この事件では営業職での採用である事も考慮されたかもしれませんね。取引先とトラブル起こしそうですし、そうなると会社の評判も落ちますし。

「信用できない人とは一緒に仕事できない」という当たり前のことを裁判所も認めた事件かなと思います。

社労士としては、こうしたリスクを未然に防ぐための採用プロセスの整備や、内定通知書の文言の工夫など、実務的な支援が求められる場面も多いと感じます。


ご縁ある皆さまの職場づくりに、少しでもお役に立てれば幸いです。


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