ビジネスと人権(BHR)とは?人権DDって何?
「ビジネスと人権(BHR)」研修に参加して
──取引先からの人権アンケート、あなたの会社は準備できていますか?
先日、2日間にわたって「「ビジネスと人権」と社労士の役割研修(上級編)対面セッション」に参加してきました。ロールプレイやグループワークを通じて、書籍だけでは学べない気づきがたくさんあった2日間でした。今回はその内容を、中小企業の経営者・人事担当者の方にも分かりやすくお伝えします。
「ビジネスと人権(BHR)」とは何か
BHRとはBusiness and Human Rightsの略で、企業活動において人権を尊重する責任を果たすことを求める国際的な潮流のことです。
2011年に国連で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」を契機に、世界中の企業がこの取り組みを求められるようになっています。日本でも2022年に政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定し、厚生労働省が企業向けの点検ツール(チェックブック)を公開しています。
人権デュー・ディリジェンス(人権DD)とは
人権DDとは、企業が自社の事業活動やサプライチェーン全体で、人権への負の影響を特定・防止・軽減するために行う継続的なプロセスのことです。
人権DDで問われる主な視点
- 労働時間・残業は適切に管理されているか
- 最低賃金・適正な賃金が支払われているか
- 外国人労働者を含む全従業員が安全に働ける環境か
- ハラスメント防止・相談窓口は整備されているか
- 取引先・調達先も含めたサプライチェーン全体の確認
「うちには関係ない」と思っていませんか?
「大企業の話」「海外の話」と感じる方も多いと思います。しかし、研修では実際に「取引先から人権に関するアンケートが届いたケース」が紹介されました。
親会社や海外の取引先が、サプライヤーである中小企業にも人権への取り組みを求めるようになっているのです。「大企業が取り組んでいるから自社には関係ない」ではなく、「大企業と取引があるから自社にも影響が来る」という時代になっています。
特に、海外企業との取引がある製造業・輸出業や、大手親会社を持つグループ企業では、すでにこうしたアンケートへの対応を求められているケースがあります。
研修で気づいたこと──「なぜ重要か」は立場によって変わる
研修では、社長・調達部長・人事部長・労働者代表など、異なるステークホルダーの立場に立ってグループワークを行いました。そこで強く感じたのは、人権DDへの「関心の軸」が立場によってまったく違うということです。
| 立場 | 人権DDに関心を持つ理由 |
|---|---|
| 社長・経営者 | 企業イメージ・取引先からの信頼・リスク管理 |
| 調達部長 | サプライチェーンの安定・調達先への影響 |
| 人事部長 | 採用・離職・職場環境の改善 |
| 労働者代表 | 実際の労働条件・安全衛生・相談窓口 |
「SDGsだから」「世界標準だから」という正論の押しつけでは人の心は動きません。相手の立場から「なぜ自分たちに関係するか」を一緒に考えることが、この問題を会社の中に根づかせる第一歩だと感じました。
まず足元から──国内の労働法令遵守が前提
人権DDに取り組む前に、まず自社の足元を点検することが欠かせません。国際的な人権基準を語る前に、国内の労働法令を守ることが大前提です。
- 労働時間の管理は適切か(残業の把握・36協定の締結)
- 最低賃金を下回っていないか
- 就業規則は整備・周知されているか
- 外国人労働者を雇用している場合、適切な処遇・環境が整っているか
土台となる法令遵守なしに人権DDを語っても、説得力がありません。逆に言えば、日々の労務管理をしっかり行っている会社は、人権DDへの対応でも強みを持っています。
社労士として感じたこと
今回の研修を通じて、「ビジネスと人権」の問題が社労士の専門領域と深く重なることを改めて感じました。
就業規則の整備、労働時間管理、外国人労働者のサポート──これらは人権DDの土台そのものです。これからの時代、社労士は労務管理の専門家にとどまらず、企業が「人を大切にする経営」を実践するための伴走者になっていく必要があると感じています。
「取引先から人権に関するアンケートが届いた」「何から手をつければいいか分からない」という場合は、まず自社の労務環境の現状確認からご相談ください。
